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ロキノンの音楽文がサービス終了するらしい。4月に思い立って書いた文章が載ったので、記録としてとっておく。

元ページ:未来を愛で満たす、ために – NICO Touches the Wallsがおいてった「?」 (Tatsuro) 2021/4/13 | 音楽文 powered by rockinon.com

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【未来を愛で満たす、ために】
NICO Touches the Wallsがおいてった「?」

 

「複数選択した場合でも、音楽文サイトでカテゴライズされるのはタイトル・サブタイトルに含まれたアーティスト名となります。」

音楽文 powered by rockinon.com、投稿フォームの最初の項目、「アーティスト(複数選択可)必須」の注にこう書いてある。そうか、アーティスト名というのはカテゴライズするためにあるのか、と考えてしまう。

NICO Touches the Walls」

というアーティスト名、バンド名はどのようにカテゴライズされる?世代によってまちまちだろうが、反応として多いだろうなと思うのは「auのCMで手をたたけが流れてたよね」「NARUTOのオープニング、かっこよかったよね」といったものだろうか。世間的なカテゴリー is 「コンスタントにいい曲出してテレビでもたまに流れたけど、バカ売れはしてなさそうな邦ロックバンド」?。そんな彼らは結成から15年が経った2019年11月15日に

 <さあ。

 「壁」はなくなった!

 一度きりの人生、どこまでも行くよ!>

と締めくくるステートメントを出してバンドを終了させた。

「壁」を超えていくためのバンドだったはずが、バンド自体が「壁」になっていた。

 

それからおよそ1年半経った今、Spotifyでアーティストページを開くと、TOP5は以下の曲達だった。

 1.ホログラム

 2.ニワカ雨ニモ負ケズ

 3.Diver

 4.マシ・マシ

 5.Broken Youth

すべてアニメのタイアップソング。その下に続く「人気のリリース」は上から順に

 ・オーロラ(2009. アルバム)

 ・ニコ タッチズ ザ ウォールズ ノ ベスト(2014. ベストアルバム)

 ・Diver (2011. シングル)

 ・マシ・マシ(2016. シングル)

となっていた。タイアップ曲の入っていない最新作、2019年の「QUIZMASTER」にたどり着くためには、「ディスコグラフィーを見る」をタップして、もう1階層奥へとページ遷移しなければならない。

もちろんタイアップも名曲ばかりで、彼らの音楽であることに変わりはない。アルバムやカップリングを聴くきっかけになる。けれど、生きていて気にかけないといけない、気になる情報はどんどん増えていく。限られた時間、生活の中で、きっかけから実際に行動に移すことのハードルは高い。

そういったハードルをいくつも超えてライブに足を運んだリスナーを、彼らは絶対にないがしろにしなかった。どんどん新しくなるアレンジや会場やオーディエンスによって変わるグルーヴを全力で、楽しみながら更新し続けていった。セールスの結果が芳しくなくても、自由に音を楽しむライブを続けられていれば、彼らの(僕らファンの)未来は明るいと思っていた。

しかし、ライブでもセールス面での壁はずっとあった。2018年の“N X A”TOUR追加公演、10/19(金)愛知 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール。SOLD OUTしていないというのは知っていたが、実際に会場へ行くと、1階席の後方数列は空席だった。おそらく2~3階までのすべての席のうち、6割埋まっているかどうかというところ。同じツアーのライブハウス公演(6/23 (土) Zepp Nagoya)は満員だったのに。ショックだった。沢田研二さいたまスーパーアリーナ公演のチケットセールスが芳しくなく、公演当日に中止を決定した数日後だった。NICOのボーカル&ギター光村龍哉はアンコールで「俺らは待っていてくれる人が1人でもいれば必ず出てくるから!」と胸を張って言った。感謝や嬉しさがありつつも、不安だった。

翌2019年、再度のツアーを経て発表されたアルバム「QUIZMASTER」は上でも述べたとおり、初めてタイアップ曲も、CDでの先行シングル発売もない、やりたい放題「音楽」した最高にかっこいい、としか言いようのないアルバムだった。必聴。

そしてそのアルバムはSpotifyのアーティストトップページには表示されない。アルゴリズムによって。ユーザーが聴いたデータによって。

 

アルバム「QUIZMASTER」収録されている曲名にはすべて末尾に「?」がついている。最高にかっこいいのに「?」だらけのアルバム。バンド終了の報せを受けて以来ずっと、頭の中も「?」だらけだ。

NICO Touches the Walls」の音楽以外の部分が、音楽にとっての壁だったのか?

音楽だけは手からこぼれ落ちないように、とがむしゃらに活動を続けてきた結果、こぼれ落ちたものが積み重なって壁になっていたんじゃないだろうか?

マネジメントの中のことはわからないけれど、例えばサカナクションが「チームサカナクション」と呼ぶような、信頼の厚いチームは周りにいたのか?アジカンのドラマー伊地知さんのように料理が得意であれば、そういった音楽以外の好きなことも仕事にできるような環境だったか?誰か気になるアーティストがいたら、ときにはレーベルの枠も超えて共作、コラボ、プロデュースなどができるような体制はあったのか?

つくりたいものを、つくりたいときにつくることができる環境だったのか?

自分たちリスナー、ファンはその環境にどういう影響を与えていただろうか?

休まずに、またすぐアルバムを作って、ツアーをして、というのを続けてほしかったわけじゃない。時間がかかっても「?」が解けた、その先の音楽が聴いてみたかった。

彼らが彼らの曲、「image training」の歌詞のように、「飛びたい方に もう一度僕は走り出す」ために、ひとりの音楽リスナーとしてできたことは何だったのか?そして今、自分が応援しているアーティストが健やかに、つくりたいものをつくりたいタイミングでつくるために、できることは何なのか?

 

<未来を愛で満たせたなら ―18? より>

 

そのために、イメージし続けることをやめない。

「?」を無視しない。

「?」をアーティストだけに押し付けない。

リスナーも一緒に「?」をみつけ、解いていく。

これからも心ふるえる、新しい音楽が聴きたいから。